売れたら困るオンラインショップ

よくある相談というか依頼の中に、オンラインショップの売り上げを伸ばしたいというのがある。その場合、サイトの状況に応じて、商品の見せ方だとか、プロモーション方法などをアドバイスしたりするのだが、クライアントによっては「売り上げを伸ばして大丈夫か?」と確認することも少なくない。

そう聞くと、大概のクライアントは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。なぜそんな当たり前のことを聞くんだと。まあ気持ちはわからないではないが、ここを素通りしてしまうと、売り上げが伸びた時に大騒ぎになってしまうこと必至だからだ。

説明だけではわかりにくいので、以下にサンプル例をあげてみる。

こんな場合

前提:地方都市の食品メーカー。卸しが中心だが、実店舗もいくつか展開しており、数年前からオンライショップも開始した

現状:オンラインショップでは1日に数個売れればいい方で、売り上げゼロの日も珍しくない。受けた注文は本社で伝票などの処理をしたあと、実店舗から発送している

こう書くと、地方の中小企業などは「うちもほとんど同じだ」と感じる方も多いのではないだろうか。ではこのまま売り上げが伸び続けたらどうなるのか。

●毎日10件ほどの注文が入るようになった
実店舗の売り上げには敵わないが、単純に対前年比8倍から10倍の売り上げが出始めているわけで、社長や役員はもちろん、ショップ担当者や店舗担当者も大喜び
●毎日50件ほどの注文が入るようになった
ショップ担当者は一日中注文の処理、問い合わせやクレーム対応に追われ、他の業務は一切できなくなる。実店舗でもこれまでのように空き時間を利用しての発送は不可能であり、専門のパートさんを入れて対応しているがバックヤードはパンク寸前である
●毎日100件近い注文が入るようになった
手作業での伝票処理は不可能であり、処理システムを導入するとともに担当者を増やして対応。実店舗からの発送も現実的ではなくなったので、専門の部署を組織した

大成功のはずが

こう書くとドタバタしながらも成功をおさめているように感じられるが、実情はそんなに甘いものではない。処理が終わらず残業続きで悲鳴をあげる従業員。忙しすぎて確認が疎かになり発送ミスや個人情報の漏洩などが頻発。処理システムの導入や担当スタッフの経費も膨らみ、莫大なはずの増収はどこへやら。

当然のように逃げ出す従業員、押し寄せるクレーム、膨れ上がる経費。大成功のはずが地獄を味わうことになってしまわけで。

何が問題だったのか

では何が問題だったのか。単純な話で、何の計画もなく売り上げだけ伸ばせばこうなることは当たり前のことで、事前に目標を設定し、目標を達成するために必要な資材や人財も各ステップごとに充填する前提で、売り上げだけでなく経費も計算し、収益計画を立てていないのが原因。

通常のビジネスで考えれば当然のことなのだが、なぜかネット関連は魔法の箱とでも思っている節がある。私が「売り上げを伸ばして大丈夫か?」と質問する企業は、この当たり前の部分が抜けていると感じられる場合なのである。