トラックの危険運転にみる企業の危機管理とリスク管理

ことの顛末

先日、片側1車線の自動車専用道(同区間の制限速度は70km/h)を走行していたのだが、高齢者を乗せていたこともあり、制限速度を守って走行していた。ところが、後方から大型トラックが異常なまでに接近しての走行をしてきた。

確かに追い越しも出来ない区間であり、車間が短くなってしまう気持ちもわからないでもないが、とにかくまずは同乗者の安全確保が優先と考え、私は道交法違反は承知の上で大型車の制限速度である80km/hまで走行速度を上げた。ところが大型トラックはさらに接近し、目測では車間距離10mを切ったのではないかと思われるほどの接近。明らかに道路交通法第26条に違反する車間距離不保持

通常、時速80キロメートルでの走行に必要とされる車間距離は約80メートル

そして次のインターチェンジで私が下りるまで、ルームミラーには後続車のナンバープレートしか映らないほどの距離での走行を10分あまり受け続けたわけである。同乗者に心配をかけまいと平静を装ってはいたが、万が一の場合は鉄の塊に確実に押し潰される恐怖に怯えながら運転していた。

本来であれば後日、ドライブレコーダーのデータと共に、恐れながらとお上に申し出るところなのだが、残念ながら愛車に搭載しているドライブレコーダーは旧型のため、前方撮影のみのタイプである。悲しいことに何の証拠もないわけで、まさに泣き寝入りするしかない状態。

しかし、当該大型トラックであるが、驚くことに緑ナンバーでありボディには大きく社名まで書かれていたのである。ルームミラーに大映しになっていたナンバープレートはしっかり覚えていたため、帰宅後、公式サイトを検索し、状況の報告と確認をして欲しい旨と、安全運行指導の徹底のお願いをメールした。それらが履行されるのであれば返信は不要との一文を添えて。

危機管理

長々とことの顛末を書いたが、今回書きたかったのは、私が危険運転を受けたという話ではない。同様のクレームや苦情の類はどのような業種の企業であれ、大なり小なり受けているはずである。その際、具体的にどう動くべきなのか。中小企業の場合は危機管理マニュアルもなければ経験も少ないと思われるので、今回の件を事例としてまとめておきたい。

以下は、私が当該運送会社の危機管理担当者であった場合、想定される行動である。

1:メール受信後、連絡へのお礼、不快な思いへのお詫び、事実確認後改めて連絡する旨を迅速に返信
2:当該日時と場所から、当該運行車両と運転手の割り出し
3:運転手からの聞き取り及びドライブレコーダー映像の確認
4:確認結果により対応
4−1(法令違反が認められない場合
4−1−1:運転手へ口頭にて安全運行指導
4−1ー2:メール送信者へ、調査内容と結果をなるべくわかりやすく説明し、今後の安全運行についての心構えと対策を連絡
4−1ー3:必要に応じて関係部署へ事例として周知
4−1ー4:ドライブレコーダーのデータや運行記録一式を保存
4−2(法令違反が認められた場合
4−2−1:危機管理責任者へ報告
4−2−2:危機管理責任者の判断により、被害者へのお詫び、当該運転手及び管理への処罰、社内への周知、安全運行指導の徹底、安全対策の見直しなどを実施。(状況によって判断が分かれるものが多いため具体例は省略)

ちなみに、メール送信から5日経過した今日現在、当該運送会社からの返信は一切届いていない。要するに、一般市民に対してそうであるように、荷主に対しても同様の危機管理能力しかない企業なのだろうと思われる。

リスク管理

もちろんこのような場で企業名を公表するようなことはないが(個別にご連絡いただいても、公的な機関または私と面識のある方以外に回答することはありません)、私の取引先などに確認し、万が一当該運送会社を利用しているようであれば、荷主側の危機管理として取引先の変更も含め、対処方法を進言することにやぶさかではない。

人の命を脅かす行為を社是としないまでも黙認するような、または一般的な危機管理も出来ないような企業と取り引きを行うリスクを考えれば、私の立場上当然の対応といえよう。

そして今更驚くほどのことでもないのだが、当該運送会社は全日本トラック協会のGマーク運送事業所として認定されているのである。全国で2万8千社あまりが認定されているそうであるが、この一例で全てを判断するわけではないが、ここでいう「安全性優良事業所」というのは荷主にとっての優良ということであり、一般市民にも優良というわけではないのだろう。

私は頻繁に運送会社を利用するような立場にはないが、いろいろな形で関わることも少なくないので、今回の件は運送会社選択の際の大きな課題を与えてくれた気がすると同時に、危機管理やリスク管理について改めて考え直すきっかけとなったことは不幸中の幸いと捉えるべきだろう。まぁ危険行為がありがたかったとは間違っても思わないけどw